KITEN!スポーツコラム #3 『あの護摩行をやってみた』

「護摩行」野球ファンなら皆読める”ごまぎょう”。もはや、キャンプが押し迫った事を告げるオフの風物詩と言っても過言ではない護摩行を14年連続で続けてこられた新井さん。今年は何と最も辛い季節とされる夏場に敢行されるそうだ。

新井さんが引退したカープ。今季は開幕から調子が上がらない。開幕前の順位予想でも広島優勝は近年に比べたら少なく、今年の広島の優勝は難しいのでは…そんな下馬評が多かった。カープの選手は鹿児島の最福寺で護摩業に参加しているが、神奈川県江ノ島にある別院の江の島大師でも、一般参加出来るそうだ。リーグ制覇、そして日本一を願いに私は向かった。

島の入り口に到着すると目の前は仲見世通り。色々な飲食店が並び、多くの人で賑わっており、スタジアム周辺のフードコートが思い起こされ、気分はもう球場。入場前に食べておこう!すると、見慣れた「丸」の文字、「丸焼きたこせんべい」。今夜からジャイアンツとの首位攻防3連戦。タコを丸焼き→タコが丸→丸がタコ。願掛けがてら丸呑み、いや丸食いだー!と思わずにいられないくらい彼は良いバッターなんです。そうこうしてると、プシュー!!とタコをプレスで焼く音と目の前に立ち上がる蒸気。受け取ると、タコの形がくっきり残っているおせんべい。美味い。そして、デカい、顔よりはるかにデカい丸焼きせんべいを食べながらお寺へ向かう。

急な階段を登りきった頂上に江の島大師はある。お寺の方に参加したい旨を伝えると、護摩木に願い事、名前、数え年を書いてお待ちくださいとの事。護摩行とは、炎の中に自身の願いを書いた護摩木を投じて祈願する修行で、炎の温度は最大で500°Cになり、火柱は3メートルにもなるそうだ。早速、願い事を書こうと思ったが、カープの選手はどんな事を書いたんだろうか?今年参加したのは、3年連続参加の會澤と堂林。そして、13年連続の石原さんだ。


日本一を1番願っているのは、最年長の石原さんかもしれない。だって、あの黒田も新井も成し遂げる事の出来なかった日本一。もう何度もチャレンジ出来る年齢では無い。だから、近年は自身の成績より後輩をチームを支える役割に徹している。だけど、諦めた訳ではない。石原は今年の護摩行後に、「
もう一回チャレンジする気持ちを心に置いて頑張りたい」と話したそうだ。4月17日、熊本での巨人戦。この試合は菊池を始め多くの選手が転機となった試合と後に振り返っている。前日、鹿児島での巨人戦、広島はジョンソンが先発ながら石原さんは出場する事なく、チームは投打に精彩を欠き、今季ワーストの借金8。フロントや選手、そしてファンもこのままではいけないと分かっていた。でもどうすることも出来ない。そんな状態が続いていた。勿論、この日も噛み合わない。7回表でようやく同点に追いつき、裏から守備に就いた石原。しかし8回裏、丸の勝ち越し2ラン。本当に良いバッターだ。素直にそう思った。心がバキバキになりそうだった。そして、迎えた9回表、先頭の野間が出ると、安部も続く。何とか1点返したが、2死3塁。今季、得点圏打率首位の菊池が適時二塁打で同点とし、今季まだ無安打の石原に繋いだ。

「不屈招福」。これは最福寺の住職が今年の護摩業後にカープの選手に送った言葉だそうだ。どんな困難があっても意思を貫く事が福を招き入れる。0−2と追い込まれながら打ち返した5球目が石原の今シーズン初安打、値千金の決勝タイムリーとなって、何とか踏み止まることが出来た。07年ファイターズが借金8から優勝しているが、借金9以上からの優勝は過去にないそうだ。

石原をこれまで最も近くで見て来た會澤は今年、正捕手に恥じない結果を願ったに違いない。ここまで昨年よりも1割近く高い得点圏打率、それに呼応して打点もハイペースで稼ぎ、6月16日の楽天戦では遂に5番に名を連ねた。本当に勝負強い、頼もしい正捕手だ。更に後輩の磯村が頭角を現し、3人の捕手がバランスよく機能し始め、熊本から約1ヶ月半後の6月1日には貯金は今季最大の14となった。

そんなことを考えながら私は、「広島東洋カープ リーグ四連覇」、「広島東洋カープ 日本一」と2本護摩木を書き終えた。すると暫くして、住職らが本堂に入ってこられいよいよ護摩業が始まった。中央に座る住職が炎の中に次々と護摩木を投げ入れ、その周りのお坊さん方はお経をひたすら唱え続ける。般若心経くらいしか聞き取れなかったし、正直に申し上げると正座を数分間続けるだけでもかなり堪えた。一般参加者は炎からはだいぶ離れてる所に居るとは言え、2時間近くその場に居る、それだけでも辛かった。

想像通りの厳しい修行を終えた住職が、「区切りが大事ですよね。我々は苦しい事をこなしていますが、要は気持ちです。何でも良いんです。区切りや終わり、何かできっかけを作れたら。」借金8、丸のホームラン、石原さんの初安打。何がきっかけになったか分からないが、確かにあの試合はカープ浮上の為の区切りの試合だった。

祈願が通じたのかどうかは分からないが、巨人との3連戦は2勝1敗で勝ち越すことが出来た。

あとがき
本コラムは文春野球フレッシュオールスターに応募し、「惜しい! あと一歩だったで賞」を頂きました。
現在、11連敗中。今こそ、行くべきだと思っている次第です。新井さんあとはよろしく頼みます!